冨安由真展|漂泊する幻影
冨安由真展|漂泊する幻影
https://kaat-seasons.com/exhibition2020/
https://www.kaat.jp/d/hyouhaku
KAAT EXHIBITION
2021/1/14-1/31
コロナの影響で半年ほど公開がずれ込んだ冨安由真展。楽しみにいていました。冨安由真、そう、あの2018年のshiseido art eggで展覧会入場待ちの行列を作った人です。
「第12回 shiseido art egg」冨安由真展 くりかえしみるゆめ
http://ubukata.cocolog-nifty.com/my_favorite_things/2018/08/12shiseido-art-.html
さて、結論から言うととても好きな展示でした。資生堂の時も同じですが、冨安さんの展覧会は好き嫌いがとても分かれそうです。展覧会の良い悪いなどではなく、好みかどうか、それがこの展覧会を評価するところかと。
「不確かなもの」を見せる展示。資生堂の時と同じテーマではありますが、全く違う手法で、より深く見せてくれています。想像や妄想を喚起させて、見る側にそこにある物語を委ねていく展示。
資生堂の時は細かい仕掛けでホラーハウスの様なイメージを作り上げていましたが、今回はまた違った感じで、この「劇場」という特性をうまく使った演出になっています。劇場で使われている照明を使って、大きな空間をその明暗で仕切る仕組み。
それによって見えない物語性を生み出しています。その隙間に対しての妄想や想像によって展示に物語がうまれる。おそらく行間を読むとか、想像するとか、妄想が苦手な人はこの展覧会は何が良いのかわからないでしょう。そう言う仕組みの展覧会です。
ここからネタバレも出てくるのでまだ、見ていない人で、これから行く人はこの後はまだ読まないようにご注意ください。
「こちらの扉をひいて中にお入りください。」と書いてあるのは劇場の重い鉄の扉。この段階で『注文の多い料理店』を思い浮かべてしまいました。そして、中に入って、そこにあったのが……扉?扉です。もう、これでワクワクしてしまった私は、もう、冨安さんの術中にはまってしまっています。
その先にあったのは、ずっと先まで続く長い長い廊下。よく見てみると真ん中あたりに人がいます。え?と言うことは……。
廊下から中に入ると暗い大きな空間。大きなと言っても暗いので目が慣れるまではどんな空間かわかりません。入り口近くのラジオからザザザというような音が流れたり、壁に廃墟の様な部屋の映像が流れたりしています。説明もなく、情報との言えない指針をさぐるように。
そして照明がスポット的に点灯して、消え、また別のところで点灯して、消えを繰り返していきます。そこには先ほど映像で見たようなテーブルやイスなどが並び、まるで廃墟のホテルに迷い込んだ様。
そしてそれらに住まうのが動物たち。熊や鹿やワニ等がそこに我が物顔でいるところに自分が足を踏み入れてしまったのに気づきます。見ている人は明かりが点る順を追って導かれるように移動していきます。何かの痕跡を辿るかのように。
廃墟のホテルの中の幾つかのシーンが一つ一つ展開されていきます。大きな空間の中なのですが、暗い空間で回りが良く見えないので、照明があたる部分だけシーンが浮かび上がります。照明で区切られた空間。劇場ならではの演出です。ミラーの使い方もうまい。後であの壁にはもともとミラーがあったよな、と思い出しました。
出来れば空いているときに見たい展示ですね。人が多いと色々と感じ方も変わってきてしまう。正味を感じ取れないかもしれない。土日はすでに入場制限がかかっているという話です。
さて、これで終わりではありません。大きな空間を出ると、再び廊下へ出ます。瞬く照明、そこにある車いすは置き去られたのか何かを待っているのか。そして、人がいないのに両側に見える人影。
廊下からもう一つの部屋へ。こちらもブラックボックスの部屋。照明がバラバラに壁にかかる絵画を照らし、それを追って見ていく。そこには答え合わせのように廃墟となったホテルの中身が描かれている。同じようで、違うような景色。
以前、人がいた場所の痕跡を描く、それだけではなく再現し、別の生き物たちを住まわすように、そこにある何かを表現する。冨安さんが表現する「不確かなもの」を感じ取って、この絵で頭の中で再現していく儀式をしている様です。
絵画の中には全く生き物はいないように見えましたが、良く見たら一匹の猫が居ました。不確かなものの中に、一つの確かなもの、それがこの猫なのでしょうか?
資生堂の時の直接的な「何かの存在感」の表現はホラーハウスのようにも見えましたが、今回はより曖昧に、より想像的に、より妄想させるようにみせているので、前に感じたお化けという存在とはまた違う感じでした。この曖昧なものに名前を付けれられない、でもそれはある、と信じてしまうような、そんな体験です。
藤原印刷さんが手掛けた図録も美しい。小口の金の仕上げも雰囲気在ります。今回の展覧会に関するものだけでなく、冨安さんの作品集になっています。 今回の展示に関しては、展示の写真ではなく、そのもとになった廃墟に動物たちが居る写真と展示してあった絵画が載っています。サイン入りのものを入手できました!
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