« [企画展] 日本画の挑戦者たち ―大観・春草・古径・御舟― | トップページ | リー・キット「僕らはもっと繊細だった。」 »

小原古邨展 -花と鳥のエデン-

開館20周年記念-版の美Ⅱ- 原安三郎コレクション
小原古邨展 -花と鳥のエデン-
茅ヶ崎市美術館
前期 9/9-10/8、後期 10/11-11/4
 
Img_8418
 
知りませんでした、こんな人が居たなんて。明治時代の花鳥版画のスペシャリスト、小原古邨の展覧会を観に茅ヶ崎まで行ってきました。花鳥図と言うのは花と鳥だけでなく動物や虫なども含めて自然を描いたものを指します。ただ、今回の展覧会で動物や虫の絵もありましたが、圧倒的に鳥が描かれている絵が多かったですね。とにかく素晴らしい、茅ヶ崎まで行く価値ありです。
 
Img_8420
 
今回展示されている版画は2016年にサントリー美術館で開催された「広重ビビッド」展と同じ原安三郎コレクションの版画作品。この茅ヶ崎市美術館がある高砂緑地は以前は原安三郎さんの別荘地の敷地でもあったそうです。原さんの当時のスペイン風洋風建築の別荘に関する展示もありました。
 
Img_8625
 
さて、初版刷りの美しさも忘れられない「広重ビビッド」展でしたが、同じ浮世絵コレクターのコレクションということで既に期待が高まります。ちなみに前期、後期で全ての作品が入れ換え、全200点を超える作品数です。なんと、全点写真撮影可です。
 
Img_8462 Img_8539
 
もちろん全点版画作品なのですが、まるで絵画のようなものばかりで、枝などの水墨表現+リアルな動物や鳥と組み合わせが素晴らしいです。サラッと筆で描いた水墨の枝のカスレやハネの表現を版画でやるのは難しそうです。それでいて版画ならではの表現もされている。
 
Img_8526  Img_8551
 
鳥だけでなく植物と虫の絵も日本的ではあります。蔦系の植物を水墨で表現するのは日本画では良く観ます。今回の展示作品のほとんどの制作は「大黒屋」のもので『国華』創刊号や小林清親の版画と同じ版元ということですので技術は凄いです。ただ、この日本画独特の感じを出すのは清親の版画とはまた別の苦労がありそうです。また、月の表現なども構図が工夫されている。
 
Img_8487  Img_8485
 
Img_8548 Img_8545
 
他にも構図の工夫が様々あって良かった。一見オーソドックスな日本画表現に見えるのですが、明治時代の画家ならではの様々な工夫があります。波との対比、連続していく変化、様々なデフォルメ。
 
Img_8475 Img_8509
 
Img_8432 Img_8434_2
 
鳥を影だけで表現しているのも良かった。また、カラスを描いた作品が幾つもありました。同じ版で刷っても刷り方を変えると別の作品の様に見えるのも面白い。カラスの羽に関しては黒のベタ一色ではなく墨の濃淡で変化をつけていました。観る角度を変えると表現が変化します。
 
Img_8472 Img_8477
 
雨の表現も多かったですね。木目を生かして刷る「板目摺」の技術を使ったものもありました。是非、近くで観たいです。動物や鳥などの表現がリアルなのですが、リアル過ぎない感じで、適度なデフォルメと背景の水墨表現との組み合わせなど、バランスがちょうど良い。
 
Img_8446 Img_8558
 
ツイッターで話題になった温め鳥もあります。鷹などが小鳥を足で捕まえて一晩カイロ代わりにする。翌朝、その小鳥は逃がすのですが、暖めてくれた恩に報いるため逃げた方向にはその日は狩りに行かないと言うお話です。鷹匠に伝わる伝承と言う話なのでおそらく作り話かとは思いますが、冬の季語にもなっているそうです。
 
Img_8469 Img_8457_2
 
この小原古邨、明治時代の版画家と言うことで、主に海外での評価が中心の作家なのですね。一説によるとフェノロサの指導で海外向けの作品を作っていたと言う話も(確実では無いようです)。日本ではあまり作品が残っていないこともあり、現在で確認できる記録も少ないようです。
 
Img_8471 Img_8479
 
今回の展覧会では「大黒屋」時代以外での作品も幾つか展示されていました。祥邨や富邨などと名前を変えて活動していた時期などは、日本画と言うよりもより装飾性の高い色使いに見えました。また、この展覧会には歌川広重や歌川国芳の作品も数点あります。
 
Img_8491 Img_8502
 
小原古邨の略暦や当時の様子などは図録及び図録に付いていたエイミー・レイグル・ニューランドさんの論文に書いてあります。読み物としてもかなり面白い内容です。図録は画像は大きくはありませんが作品が全点載っているようなのでこれは入手しても良いかもしれません。
 
Img_8504 Img_8534
 
奇想の系譜や若冲以降の流れによるものでしょうか、最近は再評価の流れがよく取り上げられます。現在東京ステーションギャラリーで展覧会が開催されている横山華山もそうですし、渡辺省亭などもそうですね。若冲ほどのフィーバーまではなかなか難しいですが、現在では一部のファンの中での話題となっているそれらがもっと日の目を見ることはあるかと思います。
 
Img_8551_2 Img_8539
 
個人的には渡辺省亭のリアルすぎる動物と背景の差異は小原古邨の版画を観た後でそれと比べると違和感を感じる部分もあります。もちろんそれが省亭の味なのですし、絵画と版画の表現の違いもあると思いますが、あくまでも個人的な好みとしては小原古邨くらい少しデフォルメした方がバランスは良い気もします。絵画と版画の差異はあるにしろ、共に中国 明朝の院体画風の表現に近く見えるので比較されそうな気もしますね。省亭の版画(『省亭花鳥画譜』など)を私はしっかりと見ていないので、そこら辺と観て比べてみたいです。まぁ、それぞれの表現に対してのあくまでも好みの話でもありますが。
 
Img_8514 Img_8554
 
ニューランドさんの論文では古邨と幸野楳嶺の作風が近いとありましたが、調べた感じですと、論文のその後に書いたあった今尾景年の作品の方が近い気もします。ここら辺も機会があれば実物をしっかりと見たいところです。
 
特に明治時代の版画家は他にも新版画として海外で評価を得た人が多いでしょう。既に知られている吉田博や伊藤深水、川瀬巴水など以外にもこの小原古邨のような人は多いのではないでしょうか。海外コレクターなどからひょっこり良い作品が大量に出てきたりする可能性もありそうですね。今回は運良く、原安三郎コレクションとして日本に作品が多く残っていたのでこの様な素晴らしい展覧会を観ることが出来たことを嬉しく思います。
 
 

|

« [企画展] 日本画の挑戦者たち ―大観・春草・古径・御舟― | トップページ | リー・キット「僕らはもっと繊細だった。」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/38654/67206726

この記事へのトラックバック一覧です: 小原古邨展 -花と鳥のエデン-:

« [企画展] 日本画の挑戦者たち ―大観・春草・古径・御舟― | トップページ | リー・キット「僕らはもっと繊細だった。」 »